2017年05月15日

映画「リリーのすべて」「イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密」

動画サイト(あ、ちゃんと合法のやつですよー)でひさびさ洋画鑑賞しましたので簡単感想を。


リリーのすべて (字幕版) -
リリーのすべて (字幕版) -

女の愛憎劇か、レズビアンものか、はたまた母娘の確執ものか・・というような画ですが、そのどれでもない「愛」の映画でした。

「リリーのすべて」(原題: Danish Girl)は、1930年代に世界初の性別適合手術を受けたリリー・エルベをモデルにした物語です。
必ずしも史実に忠実というわけではないのですが、「トランスジェンダー」あるいは「性同一性障害」が異常な精神病だと思われていた時代に、本来の性に戻りたいと強く願い、それを貫いた「女性」と、男から女へと変わっていく夫を支え続けた妻を描いた秀作でした。

監督は「英国王のスピーチ」のトム・フーパー。
主演はエディ・レッドメイン。ファンタスティック・ビーストのあの方ですね。

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身長180cmの美青年です

1930年の性別適合手術は前例のない革命的な手術で、もちろん命がけのものでした。
映画で行われる手術は、男性器の切除と女性器の形成のみですが、実在したリリーは卵巣や子宮の移植手術まで行ったそう。

ええ〜?
卵巣や子宮の移植手術なんて聞いたことないよ!
いったい誰のを・・(怯)

当時は臓器移植による拒絶反応についてはまだ知られていなかったようで、結局リリーも移植したものを摘出するはめになったりとか、相当苦しい目にあったようです。

映画には出てきませんが、最初の精巣除去手術の際、体内に未発達の卵巣が発見されたことから、リリーは、性同一性障害というより、性分化疾患だったのでは?と推察されます。見た目も小柄で体毛も薄くて相当中性的だったようですしね。

性分化疾患の症状・原因は人によって千差万別なので、決してひとくくりにはできないのですが、彼らは例外なく確固たる性のアイデンティティーを持っています。「男でも女でもない中間の性」というあいまいなものでは決してなく、心の性は生まれつき明確なのです。それが外見の表現体に合致していればいいのですが、そうでない場合は苦しむことになります。

もちろん、性分化疾患ではなくとも、外見と内面の性の差異に苦しむ人は、今と同じように昔にも存在したでしょうし、ほとんどの人は秘密を隠し通したまま生涯を終えたことでしょう。
そんな時代において真の自分を取り戻したリリーという驚くべき存在を、エディ・レッドメインが繊細に演じているのに胸を打たれました。

いやーごめん、どう頑張ったって、ごつい男が女の服着てるようにしか見えない。

最初はそう思ってたのに、リリーの内面の女性化が進むにつれ、どんどん女らしく見えてくる。
しまいにゃ、男の服着てたって中身女というのが伝わってくるまでになる。

そして妻のゲルダを演じたアリシア・ヴィキャンデルも本当に素晴らしかった・・・。
この役でアカデミー助演女優賞を獲得したのも頷けます。(エディは残念ながらノミネートどまり。ま、その前年に受賞してますからね)。

しかし、少しもやもやが残るんだよなあ。
リリー、もっとゲルダに優しくしてあげて!
って女の立場で思っちゃう。
生まれて初めて女装した日に、他の男とキスしちゃって、しかもそれゲルダに見られたのに、ごめんとかすまんとか全然ないしなあ。
ゲルダも「あなたはいつも自分のことばかりね」って愚痴ってたけど、その通りだよ!
自分の夫がどんどん女になってくなんて、苦しむに決まってるでしょー。そこんとこ慮ってあげてよう。
しかし結局は最後の最後まで夫を支えちゃうゲルダの愛、実にあっぱれでした。見習おう。独身だけど。



イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密 [DVD] -
イミテーション・ゲーム エニグマと天才数学者の秘密 [DVD] -


大人気ドラマ「シャーロック」の、ベネディクト・カンバーバッチ主演です。
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」(原題: The imitation game)は、第二次世界大戦時、ドイツ軍が誇った世界最強の暗号<エニグマ>に挑んだ天才数学者アラン・チューリングの話で、これも「リリーのすべて」同様、実在した人物をもとにしています。

英国政府が50年以上隠し続け、その存在を抹殺されていたゆえに、知名度がまったくなかったチューリングが、どんだけ凄い人だったのかが骨身に染みてわかる映画。

アラン・チューリングが同性愛者であったことが、この映画のキーになっています。
キリスト教がバックボーンにある西洋文明の偏狭な部分ですけど、同性同士の性的接触は近年まで「犯罪」であり、教授職にあったチューリングは男娼を買ってたことで足元をすくわれて気の毒なことになっちゃうんですが(そういう部分の生々しい描写などは一切ないので、苦手な人でも問題ない)、彼が成し遂げた偉業が公に認められて本当によかった・・遅すぎはしたけれども。

ナチスにエニグマという難攻不落の暗号があったことも、英国がその解読に秘密裡に成功していたことも、私はまったく知りませんでした。なんかもう呆気にとられるしか。

スターリングラード攻防戦とかの、歴史に残る酸鼻な戦闘に関する暗号も実は事前に解読されていて、連合軍を陰から勝利に導いたのが暗号解読チームだったなんて!

しかもドイツ軍に解読の事実を悟らせないよう、どの攻撃は放置してどの攻撃に応戦するってことまで机上で計算してたのに隠し通していたなんて! つまり味方をあえて見殺しにする苦渋の決断もしてたわけで。

この映画見てると、どの国家も国民に嘘をつきとおすものなんだとわかります。
国の言うことを一から十まで信じちゃいけませんねー、原発のことだってそうですよ。肝に銘じなきゃ。

いやー、スリリングでゾクゾクしました。
心臓に悪いドキドキハラハラのエンターテイメント性もありながら、1人の人間の愛と人生のお話でもありました。これを二時間弱でおさめたのはさすがプロの技。

それにしてもベネディクト・カンバーバッチ、本当にまあなんて演技力でしょう!
シャーロック役でも天才探偵の奇人演技が素晴らしく、この映画でもドのつく傍若無人ぶりを発揮してはいるけど決して超人ではなくて痛々しい。哀しい。そして偉い。

同僚と仲良くなろうとしてリンゴを渡すところ、なんだか可愛かったなあ。
同僚、いい人たちとは思うけど、アランにあんなひどい扱い受けたのにリンゴひとつで許すのはちょろすぎないかい。

posted by KIKI歌野 at 08:16| Comment(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月07日

2017年4月期ドラマについていろいろ

今期のドラマの覚書をひとつ。
勝手なことを書き散らかしていますが、あくまで個人の意見ですのでご容赦を。
今期は絶対的なワクワク感不足で悲しい・・・けれど、それなりに楽しんで拝見しております。


ツバキ文具店 〜鎌倉代書屋物語〜

依頼人の代理で手紙を書く、「代書屋」という一風変わった仕事をする「ポッポちゃん」のお話です。
「デカワンコ」以来、多部ちゃん大好きな私ですが、このドラマでも可愛くて見惚れてます♪
依頼人の想いや手紙の相手との関係性を理解したうえで、ペン、インク、便せん、封筒、切手に至るまで丁寧に吟味し、依頼人になりきって手紙をしたためるポッポちゃんの清冽なたたずまいよ・・。
現在第四話まで放映済で、私が一番好きなのは第三話です。
「男爵」と呼ばれる偏屈な初老男性(奥田瑛二)に依頼されて、借金の申し込みを断る手紙の代書をつとめることになったポッポちゃん。
かつては気脈を通じたこともある旧友に送る、借金拒絶の手紙。
若い女性が、頑固で気骨のある熟年男性になりきって書いた文章の見事さに唸らされました。
拒絶でありながら親愛の情にあふれたその手紙は「呵々」で締めくくられていました。「呵々大笑」の呵々で、あははと大笑いするさまを表しているそうです。新鮮!
派手さはないけれども品格のあるドラマで、好きです。


リバース


港かなえ原作のミステリーです。原作未読。
現在と10年前を行ったり来たりする手法は、「Nのために」の二番煎じっぽいと思いつつも、なかなかにひき込まれるものがあります。
藤原竜也がどんくさくて冴えない男の役ってどうよと首を傾げたけれど、気弱で優しい感じが板についてます。やはり芸達者ですね〜。
玉森裕太も結構いいなあ。一見クールだけど職務には熱い高校教師にちゃんと見えます。
そして小池徹平。
第一話でとっくに死んでたのが軽い衝撃でしたが、魅力的なキャラなので今後も活躍(?)してくれるのではと期待。
しかし徹平くん、いつまでそんなに可愛いつもりなんだ! もうこのままあと10年20年いっちゃってほしい。
安っぽい展開ではなく、武田鉄矢とか片平なぎさとか、脇を固めるベテランキャストもきちんとはまってるので、今後も地味に楽しみです。 
深瀬(藤原竜也)の恋人に戸田恵梨香を配したからには、彼女も広沢の死に関係していそうですね。



あなたのことはそれほど


TBS 火曜10時、「逃げ恥」「カルテット」の後釜は、蓋をあけてみれば共感できない不倫ドラマでした。
原作は未読。ベテランのいくえみりょう先生ですし、人気はあるのでしょうね。
波瑠演じるヒロイン(既婚)は夢見る夢子ちゃんで、長年好きだった相手との偶然の再会に「運命!」と舞い上がってしまい、なんと再会当日に肉体関係を持ってしまいます。もーそこで目がテン。
そこまでいれあげるほどの男か? ただのチャラ男にしか見えませんが・・・。
不倫に罪悪感のないヒロイン像って、ある意味新しさはあるかも。
こういうの生理的に受け付けない人多そうだけど、あくまでドラマはドラマってことで、今後どれくらい楽しませてくれるのか僅かながら期待しております。
どうでもいいけど「あなそれ」とかやめて。
「突然ですが、明日結婚します」も、「あすこん」って略されてたけど、略称が必要なほど話題にしてないし愛されてないし流行らないし。


母になる


3歳の時に誘拐されて行方不明になっていた息子と9年ぶりに奇跡の再会を果たすも、息子には別の、育ての母が存在していた・・・。
そこそこ面白いし、たぶん最終回までお付き合いするとは思いますが、ハマるほどでは。
ネットは「毎回号泣してます」の絶賛で埋まっているので、このドラマはお子さんのいらっしゃる方が観てこそ真価がわかるのかもしれない。
あと私、古くは「1リットルの涙」に涙を流せなかった人間なので、沢尻エリカと相性が悪いのか? 残念。しかし息子でもないコウを勝手に育てていた麻子が、やたらに可哀想な感じに描写されてるのなぜなんだ。
うまくいかない母子関係よりも麻子の事情が気になる。


貴族探偵

月9の起死回生をかけてフジが挑んだ意欲作。
キャストは豪華なんだけど、なんだろう、このボタンを掛け違えているようなチグハグさは。
謎解きに関しては、へーって思わないでもないんだけど。
特に犯罪再現ビデオの松重さん面白い!(孤独のグルメも放映中なのにお疲れ様です)
主役の相葉くん、とても頑張ってるけどごめん、たぶん執事役とかのほうがしっくりくる。
堺雅人なら3倍面白いんだろうけど、この脚本には出てくれないだろうなあ。
中山美穂のメイド役は「地味にスゴイ! 校閲ガール河野悦子」に出てた江口のりこで見たかった。
生瀬さん、滝藤さん、松重さんのお三方の力で何とかしてくれるかなという儚い期待を抱きつつ、次回も多分見ます。


posted by KIKI歌野 at 22:34| Comment(0) | ドラマ感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月29日

映画: 怒り

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灼熱の夏の日、東京・八王子市で凄惨な殺人事件が起きた。
犯人はその家の妻を絞殺した後、蒸し風呂状態の家の中で一時間待ち、帰宅した夫を包丁で刺して殺害した。
血だまりを指に塗り付けて書かれた、大きな「怒」の文字が壁に残されていた。
指紋や遺留品から、警察は山神一也という男を容疑者として全国に指名手配したが、山神は逃亡し、事件から一年経ってもまだ行方は知れなかった。


千葉、沖縄、東京。
それぞれの土地の人々の生活に、素性の知れない三人の男がするりと入り込み、親しい交流関係をつくりあげつつあった。

千葉の漁港で寡黙に働く田代(松山ケンイチ)。
沖縄の離島でバックパッカー生活を謳歌している田中(森山未來)
無職で陰のある同性愛者、直人(綾野剛)

いずれの男も、年恰好、容貌など、指名手配の犯人となんらかの類似点があった。
それに加えて身元不詳であることから、男たちの周囲の人間は信じたい気持ちと、どうしようもなくこみあげる疑いのはざまで苦しむようになる。

田代には、頭は少し弱いが明るく純粋な愛子(宮崎あおい)、そして彼女の父親(渡辺謙)。
田中には、好意を寄せてくれる少女・泉(広瀬すず)と、その友人・辰哉(佐久本宝)。
直人には、華やかで自信に満ちた恋人、優馬(妻夫木聡)。

信じるのか。疑うのか。

三つの土地に住まう人々の思惑を交差させながら、ストーリーは進んでいく---。

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以下、ネタバレします。


DVDで鑑賞しました。
「フラガール」、「悪人」の李相日監督作品なので、見ごたえのある映画なんだろうなとは思っていましたが、予備知識入れるのは好きじゃないので、ストーリーは全く知りませんでした。

いやーとにかく演技が素晴らしかった!

李監督は演技指導が厳しいことで有名とのことですが、もともとが実力派ぞろいで華もある役者陣の演技は文句なしに素晴らしいの一言でした。

まず、千葉編では、三十路なのに二十二歳の女の子になりきった宮崎あおい。
終始すっぴん顔、しかも役作りのために7kg増量したという女優魂がすごい。
「人とちょっと違う」愛子の幼さ、もろさ、優しさを、透明感のある宮崎あおいが演じたのは正解だったと思います。中の人が成熟しているからこその説得力がありました。
そして松山ケンイチの目つきが時々怪しく、む、こいつが犯人かと思わせるミスリードもあるのですが、そんなことより「お弁当毎日つくってあげよっか?」と提案する愛子に、「いいの?」と訊いたあの表情にやられましたよ。可愛すぎて。
ある事情のせいで転々と住まいや仕事を変えてきて警戒心の塊のような田代が、愛子の開けっ放しな好意に反射的に抱く猜疑心、戸惑い、そして嬉しさを、「いいの?」の顔だけで表現してみせる松ケン、いつもながら匠の技です。


東京編では、なんといっても妻夫木聡に目を奪われました。
一流企業勤務のエグゼクティブなゲイ役なのですが、ゲイじゃなくたって見惚れるほどのよき男です。
おしゃれヒゲ、シャツのボタンの外し方、適度に鍛えられた肉体、ゲイコミュニティの中でもリア充に属するシャイニーゲイとしての自然な演技は、リアルゲイの方にも大好評だったようです。もともとすこぶる可愛い顔なので、男臭さが加わると無敵ですね。
綾野剛もはかなげでよかったです。
持ち帰りのコンビニ弁当が歩いてるうちに斜めになっちゃって、何度も直すところにツボりました。たぶんこの映画のなかで最も共感できたシーンでしたww
2人の濡れ場はかなり濃厚なので苦手な方はご注意。腐女子ならおいしい映画です。


沖縄編は・・観なきゃよかったと後悔するほどの衝撃展開でした。
広瀬すず演じる泉が米兵に襲われるシーンは奇妙な臨場感に満ち、自分も足を震わせてその場に隠れていると錯覚するほどに恐ろしいものでした。
泉に想いを寄せる辰哉を演じるのは、無名の佐久本宝。
最初はなんでこんな顔の子が、と思ったけれど、島の少年にしか見えない素朴さがあってナイスキャスティングです。

森山未來はさすがの怪演でしたが・・・なぜ森山未來が犯人役だったのでしょうか。
あの手の顔の人が犯人て、ひねりがなさすぎませんか。
こう思うのは私だけなのかどうなのかよくわからないけれど、@松山ケンイチ、A綾野剛、➂森山未來と並べれば、そりゃ犯人は森山未來になるでしょうよという・・。

ものすごく怪しい登場 → あれ? なんかめっちゃいい人じゃん → やっぱりアブないヤツだったー!!

という役は、逆に松ケンがやってもよかったんじゃないですかね?

でもまあ、もしも松ケンが犯人役だったら、私は間違いなく彼に感情移入してしまうだろうし、最初から最後まで沖縄編だけで一本の映画を見たいと願ってしまうことでしょう。
それほどまでに凶悪犯・山神の人物像に興味を掻き立てられてしまう危険性が高い。

山神(=田中)は、信頼を裏切られて憤った少年によって、沖縄の地で刺殺されました。
沖縄は美しい海に囲まれた観光地であるとともに、第二次世界大戦時も、米軍基地問題を抱える今も、日本政府によってスケープゴートにされ続け、根深い絶望と怒りを抱え込まされている土地です。

犯行現場、そして隠れ住んでいた離島の洞窟に山神が書いた「怒」の文字は、弱者のプライドを涼しい顔で踏み躙っていく何かに対する激昂の表現であり、彼は泉の身に降りかかった暴力に対してもおそらく心の底から憤っていました。

「俺は沖縄の味方になるとか偉そうなことは言えないけど、お前の味方にならなれる」

泉を助けられなかった自分の弱さを責める辰哉にそう告げた言葉は、決して嘘ではなかったと思います。
彼には、確かに弱者に寄り添うやさしさの持ち合わせがありました。
けれどその一方で、

「米兵にヤラれてる女を見た。知ってる女だった。女気絶。ウケる。」

島の岩に残酷な殴り書きをした山神も、また山神の一部でした。

「どっかのオヤジがポリース、ポリースって叫んで、それで終了だよ。逃げねえで最後までやれよ、あのクソアメ公! 根性がねえんだよ!」

無力な少女への凌辱行為を肯定する言葉を吐く理由は、山神自身が見知らぬ人間を殺害するという凶行を完遂したからに他なりません。
暴力の根源は、自尊を踏みにじられた怒りです。
誰かを痛めつけなくては自分の形が保てないほどに、傷つけられてきたからです。人生の途中からは、それが本人の思い込みや妄想である場合がほとんどであっても。

人に同情されることを何よりも忌み嫌う山神は、泉を弱者として憐みそうになる自分の一部が反吐が出るほど憎く、理不尽な力を行使する側にどうしても自分を置かなくてはならなかったのだろうと推察しますが、原作も読んでいませんので、作者の意図に近いのか、的外れなのかはわかりません。

ともあれ、森山未來の起用は過剰な感情移入をさせないという意味では成功です。
この映画の焦点は、犯人を含む三人の男の感情や人格の掘り下げに当てられることはなく、あくまでも周囲の人間の揺れ動く「信」と「疑」に主眼が置かれているからです。

笑顔
流れてくる目線
ぽつりとかけてくれた言葉
指先のやさしさ、抱き合う腕
かけがえのない出会い。
けれど、好意や愛といったものは、どれほど丁寧に育んでも、たった一つの綻びで不可逆に、永遠に失われてしまうことがある。

目の前のその人を信じてあげられなかったこと。その結末。
信じてはいけない人を信じてしまったこと。その結末。

それぞれのエピソードだけで一本の映画が作れそうなほど濃厚な、三つの土地の人間模様は並行して語られますが、並行するだけであって接点はありません。

もしほんの少しでも絡みがあれば(犯人が沖縄で殺害されたニュースを渡辺謙が目にした、とかその程度でも)、「繋がる」カタルシスがあったんじゃないかと思います。
三つの人間関係があるなら、三つ用意した意味を提示してほしかった・・と思ってしまうのは贅沢な要求でしょうか?

とはいえ、映画は素晴らしいテンポで進行していくので、少しも飽きることなく最後まで引き込まれて見てしまいました。
千葉で語られている音声が東京の映像に重なったり、同じ場所における現在と過去を交互に映写したりと、お年寄りや子供が見たら混乱するしかない編集技法なのですが、非常に効率的ですね。

千葉編を除けば、ほぼ救いようのない結末なのに、私には不思議とざらついた感覚は残りませんでした。
彼らの、これからの人生の幸を祈らずにはいられません。
特に優馬くん!(泣)

「二度と見たくない名作」と評する人もいるそうなので、心が弱っているときには避けたほうが無難かもですし、誰にでも勧められる映画ではないけれど、良質な作品でした。

posted by KIKI歌野 at 19:39| Comment(0) | 映画感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする